2025年9月6日(土)、TKP市ヶ谷カンファレンスセンターにおいて、2025-26年度ロータリー米山記念奨学生を対象とした「卓話教室」が開催されました。
開会挨拶と卓話の意義
開会にあたり、檜垣慎司米山記念奨学委員長が挨拶し、多くのロータリークラブが奨学生の世話クラブを希望している背景には、奨学生たちの人柄や努力が高く評価されていることがあると述べました。また、10月の米山月間に向けて、奨学生がクラブ例会で自己紹介や研究内容を語る「卓話」を通じ、交流を深めることの重要性を強調しました。
続いて、遠藤美香米山資金推進委員長から卓話の目的や意義について説明がありました。卓話は、奨学生が自らのバックグラウンドや研究、将来の夢を会員に伝え、理解を深めてもらう貴重な機会であること、そして効果的なプレゼンテーションのためには時間管理や視線、資料の活用、体験談の共有、そして感謝の言葉で締めくくることが大切であるとアドバイスがありました。
ワークショップと発表練習
吉澤靖司米山資金推進委員からワークショップの進行説明が行われ、参加者は4つのチームに分かれて活動を開始しました。前半はワークシートを用いて自己紹介や研究テーマ、日本での経験など話したい内容を整理し、後半は3分間のプレゼンテーション練習を行い、チーム内で良かった点や改善点を共有しました。
チーム内での発表練習では、幼少期の家庭環境や日本語を学んだきっかけ、日本に留学するまでの経緯などが語られました。ある学生は、貧困の中で家族全員が努力し、それぞれが専門職として自立していったことを紹介、神経科学を研究する学生は、意思決定に関わる脳のメカニズムを会員にもわかりやすい言葉で説明しようと身近な事例を紹介し自らの難解な専門分野を工夫して紹介しました。
また、映画『君の名は。』を見て東京の生活に憧れたことがきっかけで来日し、現在は半導体研究に打ち込んでいる学生は、日本と台湾を結ぶ技術者として活躍したいという目標を力強く述べました。各発表の後にはチームメンバーから積極的に質問や感想が寄せられ、発表者は「世話クラブの会員に自分をもっと理解してもらいたい」という思いから真摯に受け止め、自分の発表を見直していました。
ミニ卓話発表会
チーム内ワークショップでの発表練習を経て、いよいよ全員の前でのミニ卓話発表会が行われました。発表時間は1人3分。奨学生たちは限られた時間の中で、自らの言葉で真剣に伝えようとする姿が印象的でした。通常、会員の皆さまは自クラブの奨学生しか直接聞く機会がないため、本報告ではいくつかの発表内容を抜粋し、奨学生の多様なバックグラウンドや想いを紹介します。
印象的なエピソードの数々
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アートで心の苦しみを表現する奨学生
日本各地での留学生活を通じ、困難な時期にも支えてくれた人々との出会いに感謝し、「すべての出会いには意味がある」「皆さんとの出会いも大切にしたい」と語りました。
· アートで心の苦しみを表現する奨学生
精神的な痛みをテーマに立体作品を制作する中国出身の女子美術大学院生は、作品に込めた想いと背景を熱心に語りました。彼女の発表からは、芸術を通じて社会にメッセージを届けようとする強い意志が伝わりました。
· 偏見をなくしたいと語る韓国出身の奨学生
北朝鮮出身の留学生との出会いや、ロータリー会員の温かい支援を通じて、自分の中の先入観が変わった経験を語り、「将来は偏見やステレオタイプをなくす仕事がしたい」と力強く話しました。
· 日本語教育の道を志す奨学生
医師になることを期待されながらも、日本語教育を選び、日本語を学ぶ人々が抱える「言いたいことを表現できないもどかしさ」を解消したいと語った奨学生。言葉の力と責任について深く考える姿勢が印象的でした。
· 大阪の日本語教室での出会い
初来日で不安を抱えていたときに出会ったボランティアの人々との交流を振り返り、「どの年齢からでも学び続けられることを知った」と話した奨学生は、その温かい記憶が今の研究生活の支えになっていると語りました。
· エネルギー政策を学び、母国に貢献したい奨学生
モンゴル出身の奨学生は、祖国のエネルギー事情を改善するために学んでいること、将来は政治家として持続可能な社会づくりに携わりたいという目標を語りました。
· アニメと映画から始まった日本への関心
幼少期から日本のアニメや映画に魅了され、昭和時代の映画作品や漫画『ちびまる子ちゃん』の舞台を訪れた経験を語った奨学生もいました。「文化を通じて日本と世界をつなぐ架け橋になりたい」という言葉に、多くの参加者が共感していました。
· 脳科学研究に挑む奨学生
依存症のメカニズムを解明し、精神疾患の治療法開発に貢献したいと語る医学研究科の奨学生は、将来は博士課程に進学し、研究者としての道を歩みたいと決意を述べました。
· 異文化交流を広げたい奨学生
国際交流イベントの運営経験を持つ中国出身の奨学生は、「本当の国際交流とは何か」を問い続け、将来は異文化交流の場を広げる仕事に携わりたいと熱意を込めて語りました。
· 夢への道を模索する奨学生
日本での進路変更やコロナ禍での孤独を経て、最終的に教師への道を選び、来春から学校で教壇に立つことが決まった奨学生は、「目的地さえあればどの道を通ってもたどり着ける」というメッセージで発表を締めくくりました。
発表後の感想共有の時間には、「日本語の上手さよりも、自分の言葉で自分の想いを語ることが大切」、ロータリアンの運営委員からは「堂々と自分の思いを伝えれば、きっとクラブの皆さんにも響く」という励ましが送られ、奨学生たちは自信を深めた様子でした。奨学生たちは、世話クラブの会員に自分のことをもっと知ってもらいたい、理解を深めてもらいたいという強い思いから、限られた時間の中で言葉を選び、一生懸命に自分の経験や考えを伝えようとしていました。
今回の卓話教室を通して、奨学生の皆さんが世話クラブの会員に「自分のことをもっと知ってほしい」という思いを胸に、一生懸命に準備し、言葉を選びながら発表している姿がとても印象的でした。国や文化、言語の違いを越えて、自分の経験や夢を伝えようとするその真摯な姿に、会場にいた私自身も何度も心を動かされました。
また、各クラブでの卓話が単なる自己紹介や研究発表にとどまらず、会員の皆さんとの理解や交流を深める貴重な機会になることを、あらためて実感しました。互いを知り、理解し合うことで少しずつ築かれていく信頼関係こそが、米山記念奨学事業の理念である「理解と友好の絆」につながっていくのだと思います。
さらに、奨学生の皆さんにとっても、この卓話教室はプレゼンテーションのスキルを磨き、仲間の経験から学び、自分の考えをより深めるきっかけになったはずです。ここでの学びが今後の卓話やクラブとの交流の場で生かされ、奨学生とロータリアン双方にとって温かいつながりが広がっていくことを、心から楽しみにしています。
米山記念奨学委員会 副委員長 青栁浩
所属 東京山の手ロータリークラブ